抄録
これまで個人の気分特性が顕在的記憶に影響することは報告されているが、潜在的記憶に影響するかは検討されていない。本研究では50名の高齢者を対象に記銘前と想起前の気分特性が顕在的記憶と潜在的記憶を予測するかを検討した。実験ではニュートラル単語45項目とその単語を描画し、感情を喚起する写真45項目を用いて、記銘材料の感情の種類によるネガティブ・ニュートラル・ポジティブの3条件を設定した。記銘セッションでは単語と写真を対提示し、各条件をランダムに提示した。記銘セッション後、自由再生課題と単語語幹完成課題の想起セッションを行なった。気分特性は記銘セッションと想起セッションの前に測定した。その結果、想起前のポジティブ気分特性とポジティブ条件の再生単語数に正の相関傾向がみられたが、気分特性と潜在的記憶には関連性がみられなかった。よって、潜在的記憶は自己報告による気分特性の影響を受けないことが示唆された。