抄録
本研究の目的は、アンサンブル演奏において視覚情報、特に視線行動がタイミング調整に与える影響について検討することである。手続きとして、ピアノデュオ演奏のタイミングのずれを、視覚情報を様々に制限して計測した。実験参加者はプロを含む熟達したピアノ演奏者6名(3組)であり、実験は大阪大学人間科学研究科の防音室で行われた。実験の結果、視覚的手がかりを少しでも使用できる条件では、共演者が見えない条件に比べて、タイミングのずれが小さくなった。このことから、視覚情報はアンサンブル演奏でのタイミング調整に寄与することが示された。また、クラスター分析の結果、対面での演奏と、頭部を除く上肢のみ見える条件でのずれのパターンが類似していた。従って、実際の演奏におけるタイミング調整では、上肢の視覚的手がかりが用いられていることが推測される。