抄録
同じ名でも職業名として憶えるより名字として憶える方が顔との対連合記憶が低下する.Baker-bakerパラドックスとして知られるこの現象は,Bruce & Youngの顔‐人物認識モデルの枠組みでは,顔と結びつく氏名情報が職業名等の人物属性情報と比べ弱い,という観点で説明される.本研究では属性情報として地名を用いた日本版 Baker-baker 刺激を考案し,顔写真の提示方向(正立 / 倒立)による地名または人名記憶への影響も合わせて顔と名前の記憶過程について検討した.名前に対する手がかり再生課題および顔の再認課題の結果は,倒立顔に対する記憶成績が低下する倒立効果が見られたが,Baker-bakerパラドックスの成立は確認されなかった.文化心理学的要因および意味記憶表象の性質からパラドックス不成立の原因が検討された.