抄録
二胡楽曲に対する聴取印象の構造を調べ,ビブラートとテンポの影響を検討した.二胡楽曲に対する印象評定の因子分析の結果,明朗,平安,高尚,悲愴および情緒の5因子が抽出された.これらは,人の声に似る独特の音色や,音高に独特の変化をつけさせる技法といった,二胡楽曲に特有の要素を感得したことの表れであると解釈できる.そのうち,二胡楽曲特有と考えられる“悲愴感”に,ビブラートとテンポがどのような影響を与えるかを検証した.その結果,悲愴感は,テンポが遅い場合に高まり,テンポが速い場合にはビブラートが適切にかけられている場合に高まることがわかった.この結果は,今回の聴き手が二胡に馴染みがなく,したがって二胡楽曲に関する知識もほとんど持っていなかったということと関係している可能性がある.今後は,二胡熟達者を聴き手として,ビブラートとテンポが印象評価に与える影響について検証することが必要であろう.