抄録
生体は複数の感覚情報を統合することで外界を知覚しており,聴覚情報であっても見え方に影響を与えることがある。近年,聴覚情報によって視知覚が変容する現象が数多く報告されており,音の提示によって通り抜けているように見えていた軌道が跳ね返っているように見える現象や,ピッチがだんだん上がる,もしくは下がる音を提示することによって多義的だった運動方向が一義的に定まるといった現象が報告されている。しかし,これらの現象は多義的に見えるような複合刺激を用いており,より単純な刺激でも同様に変容するかはあまり検討されていない。そこで,本研究では仮現運動に聴覚刺激を同期して提示し,そのピッチの変化が運動軌道を変容させるかを検討した。その結果,同期させた音のピッチが下がる条件で軌道が下方に変化する割合が高くなった。ピッチが上がる条件では上方に変化する傾向は見られたが,有意な差ではなかった。