抄録
階層的な構造を適切に処理する能力は,ヒトが持つ重要な認知的特徴のひとつである.こうした能力は言語における複文の産出や理解に寄与していると言われる.本研究はこのような構造を持つ複文理解が脳内でどのように実現されているかを検討するため,機能的核磁気共鳴画像法を用いて実験を行った.関係節を含む複文がオンラインで正しく理解されるには,入力された名詞節や動詞を統合する節(主節/従属節)が適切に切り替えられる必要がある.我々は動的因果モデリングと呼ばれる手法を利用して脳領域間の相互作用を調べ,文要素を統合すべき階層の切り替え処理を実現する脳内ネットワークについて検討を行った.その結果,複文理解中には左下前頭回から左後部背外側前頭前野に向かう結合が存在していることが明らかになった.さらに階層の切り替えが生じる際には,左後部背外側前頭前野が左下前頭回の活動を抑制するように働くことが示唆された.