抄録
合理的な選好関係に違反した,文脈依存的な選択現象として,本研究では多属性意思決定課題における,妥協効果を取り上げた。10名の学部学生に,12問の2属性3肢選択課題(仮想的な購買課題)を解くように求め,課題遂行時の眼球運動を測定した。妥協効果が生起するメカニズムを探るため,妥協効果が生じた試行における3肢選択課題の眼球運動(サッカード)を,3フェーズに分けて時系列的に解析した。選択肢間サッカードの時系列解析によって,(a) フェーズ1では回数も少なく,相互に差のなかった3種類の2肢間サッカードが,(b) フェーズ2では一旦,3種類とも増加したあと,(c) フェーズ3では重要な選択肢間のサッカードが,重要でない選択肢間サッカードの約4倍の頻度に達し,情報の探索と取得が意思決定に向けて絞り込まれて行くダイナミックなプロセスが明らかになった。