抄録
食の記憶(これまでで一番おいしいと感じた経験、一番まずかったと感じた経験の記憶)、また、その想起にどのような特徴があるのかを、一般成人51名を対象に自作質問紙を用いて検討した。その結果、1)おいしかった食の想起時に幸福感を感じる傾向があること、2)おいしかった食の記憶が他者との共食と、まずかった食が孤食と結びつくことが多いことや、前者のほうが後者に比べ食の多様な側面の想起を伴うことが多いことなどから、おいしい食の記憶が食場面のさまざまな側面と結びついた複合的、総合的なものであるのに対し、まずかった食の記憶は特定の側面と特異的に結びついていると考えられること、などがわかった。これらの結果は、感情と記憶の関係、自伝的記憶の想起といった観点から検討された。