抄録
ポリグラフ検査は,心理学を応用した科学捜査技術の一つである。本発表では,現在の日本の警察で実施されているポリグラフ検査の手法である隠匿情報検査の概略を紹介する。隠匿情報検査は,事件に関する記憶の有無を,質問に対する生理的変化に基づいて調べる手法である。ポリグラフ検査は,しばしば「ウソ発見」の名で呼ばれることもある。しかし,日本のポリグラフ検査は,記憶に焦点を当てた隠匿情報検査を用いている点が特色である。隠匿情報検査は科学的検査法としての妥当性が高く評価されているが,実際の応用場面での利用は世界的にみても珍しい。また,記憶を扱う認知心理学は,隠匿情報検査にとって重要な背景領域となるはずである。しかし,現状では,両者の関係は必ずしも密接とはいえない。そこで本発表では,記憶の認知心理学が隠匿情報検査を含めた犯罪捜査への貢献の可能性についても論じる。