身体近傍空間の加齢変化を明らかにするため,視触覚干渉課題を用いて視触覚相互作用の生じる身体からの距離が若齢者と高齢者でどのように異なるかを調べた。触覚刺激は右または左手に提示し,同時に視覚刺激を触覚刺激と同側または反対側の様々な距離(近:5cm, 中:37.5cm,遠:70cm)から提示した。被験者には視覚刺激を無視しつつ,触覚刺激が左右どちらの手に提示されたかを素早く回答するよう教示した。ベースラインとして触覚単独条件も行ない,各視覚条件と比較した。その結果,若齢者群では近距離条件でのみ干渉効果が見られたのに対して,高齢者群では近および中距離条件で干渉効果が見られた。さらに,運動機能検査として行ったTimed Up & Go (TUG)テストの成績によって2群に分けて分析を行ったところ,高齢者の高成績群では近距離条件でのみ干渉効果があったのに対し,低成績群では,近および中距離条件で干渉効果が見られた。一方,若齢者はTUG成績によらず近距離条件のみで干渉効果があった。以上の結果は,視触覚相互作用が生起する身体からの距離とTUGで測定される運動機能との間には何らかの関係がある可能性を示唆する。