抄録
予定(展望的)記憶とは,将来において意図した行動を想起し,実行する心理過程であり,情動によって影響を受ける.しかし,予定記憶における情動の効果と気分や性格特性の個人差との関係は明らかではない.本研究では,この点について検証した.参加者は,画面の上下に写真が960枚ずつ提示され,通常は上部の写真のカテゴリー判断を行う背景課題を実施した.しかし,平均44秒の間隔で下部にターゲットが提示された場合には,背景課題を行わずにターゲットへ反応する予定記憶課題を実施した.予定記憶課題のターゲットには,情動的に不快と中性の刺激が含まれていた.その結果,予定記憶課題における不快刺激への反応時間は,中性刺激への反応時間よりも有意に遅延しており,この遅延は現在の気分状態の個人差と有意に相関していた.これらの結果は,情動的に不快な予定記憶に対する反応は抑制され,その抑制は気分の個人差と関連することを示唆している.