抄録
青年中期から若年成人の自閉スペクトラム症者(ASD)を対象に,到達把持動作の運動学的特性を定型発達者(TD)と比較検討した.参加者には,円柱物体を把持後5 cm程持ち上げてから元に戻すことを求めた.運動中外界が見えている条件(視覚あり条件)と,運動開始直後に外界が見えなくなる条件(視覚なし条件)を設け,セッション内で同一条件を行うブロック化条件と,視覚あり・なし条件を交互に行う交互条件を検討した.把持動作中の指間距離最大値は,TDと同様に,ASDも指間距離最大値への運動中の視覚の影響がブロック化条件より交互条件で小さかった.一方,動作間遷移時間(把持完了から持ち上げ開始までの時間)について,ブロック化条件で,ASDはTDに比べて有意に長くなった.以上より,ASDの到達把持運動制御における運動中の見えの利用特性はTDと類似している一方,動作間のスムーズな遷移が困難であることが示唆された.