抄録
手で使用する道具の認知には,手の身体モデルを用いた把持運動の脳内シミュレーションによって評価された把持可能性が寄与していると考えている(脳内シミュレーション仮説).この仮説の妥当性を検証するために,変形した手の身体モデルを学習するための実験パラダイムを構築し,学習中に表示した手に対する身体所有感と道具のサイズに関する認知的判断との関係について調査した.身体所有感の比較的高いグループにおいて,変形した利き手の身体モデルを学習したとき,利き手で使用する道具ではより大きなサイズの道具をその道具と見なすように変化したが,非利き手で使用する道具については変化しなかった.一方,非利き手の身体モデルを学習した条件では逆の傾向を示した.しかし,身体所有感の低いグループでは上記のような変化は見られなかった.これらの結果は,手の身体モデルの学習において身体所有感が重要な役割を果たしていることを示唆している.