抄録
刺激反応適合性パラダイムにおいては,直前試行の適合性によって現試行の適合性効果は変動する。現試行の適合性効果は,直前試行が一致よりも不一致試行で減少する。この視覚情報選択性の調整(Gratton効果)は,競合を経験したことで,注意が動員されたためだと考えられる。近年,回避動機づけに比べ,接近動機づけが注意の動員をもたらすことが報告されている。そこで,腕の屈曲伸展動作を使って,接近回避動機づけを操作し,動機づけがサイモン課題のGratton効果に及ぼす影響を観察した。屈曲動作により接近動機づけを誘発するために,反応ボタンを机下に設置し掌で下から上に押す条件(屈曲条件)と,伸展動作により回避動機づけを誘発するために,ボタンを机上に設置し掌で上から押す条件(伸展条件)を用意した。その結果,Gratton効果は屈曲条件でより大きくなり,接近動機づけが視覚情報選択性の調整を高めることが示唆された。