近年、ゲノム編集を用いた医療技術や核酸医薬の開発が大きく進展している。これらのモダリティは蛋白質を標的とする従来の医薬品とは異なり、DNAあるいはRNAのレベルで生体を制御できる点が大きな特色である。作用機構としては、これまでの医薬品では難しかった「疾患の原因となる分子をなくす」あるいは「機能的な分子を発現させる」ことが可能であり、特にアンメットメディカルニーズの高い遺伝性疾患や難治性疾患の領域での応用が注目されている。これらの医療技術では、オリゴ核酸がDNAあるいはRNAと相補的に結合することで標的配列を認識するが、この標的認識の原理は蛋白質を標的とする医薬品と比較すると、極めて明確であり、イメージしやすい。このわかりやすい標的認識機構は、いわゆる「オフターゲット効果」を容易に想起させ、そのリスクを懸念する声も多い。
我々はこれまでアンチセンス医薬を対象にオフターゲット効果の予測・評価法について検討を行ってきた。具体的には、in silico解析とヒト細胞を用いたin vitro解析(アレイ解析等)を組み合わせた評価法を提案し、この評価スキームを多角的に検証することで、個体におけるオフターゲット効果を高い精度で予測できることを明らかにしている。
低分子医薬のオフターゲット作用は主に動物試験で評価されるが、オフターゲット分子(対象は主に蛋白質)は特定されていないケースが多く、また、オフターゲット分子に対する作用の程度も種により異なることから、動物でどの程度安全性が予測できているかは不明確な部分も大きい。これに対して、核酸医薬のオフターゲット効果(=狭義のオフターゲット作用:対象はRNA)については、ヒト細胞を用いた上記のスキームで高い精度で予測できることから、他の機序に由来する毒性よりもリスク管理しやすいと解釈することができる。本発表では、実験的データに基づいてオフターゲット効果の予測・評価法について考察したい。