1回の視覚刺激の提示に2回の聴覚刺激を付随させることで,視覚刺激の提示回数も2回に知覚される場合がある。このような現象は分裂錯覚と呼ばれ,視覚刺激のもつ特性によって生起頻度が変化することが報告されている。本研究では,視覚刺激のもつ感情価が分裂錯覚の生起過程に与える影響について,信号検出理論による弁別感度と判断基準を指標として検討を行った。実験1では表情刺激を用いて検討を行ったところ,分裂錯覚が生じる事態において感情価をもつ怒り顔および幸福顔は中性顔よりも判断基準にバイアスがかかることが示された。実験2では幾何学図形を用いて検討を行ったところ,感情価をもつ逆三角形および円形では中性刺激である三角形よりも弁別感度が低下し,分裂錯覚が生起しやすくなることが示された。2つの実験より,視覚刺激の感情価は刺激によって分裂錯覚の生起過程の異なる処理段階に影響を与えることが示唆された。