抄録
これまでの研究では,「球形を握ると球形の画像を見つけるのが早くなる」のように,多感覚間の物体表象の一致性が目標指向的な注意制御に影響することが示されていた。しかし,多感覚間の物体表象一致性が非自発的な注意シフトを引き起こすかは明らかではない。そこで本研究では,手で握った物体と同形状の視覚刺激へ空間的注意が不随意に向けられるか検討した。実験では,参加者は特定の形状の物体を左手で握りながら,画面上の注視点の上下いずれかに呈示される矢印の向きを素早く識別し右手で回答した。矢印が呈示されうる2箇所には,課題とは関連しない異なる物体画像がそれぞれ先行呈示された。一連の実験の結果,握った物体と同形状の画像が呈示された位置に矢印が出現した場合,逆位置に呈示された場合よりも矢印の向きの判断が早いことが示された。これは,多感覚間の一致性が空間的注意の非自発的シフトを励起する可能性を示している。