抄録
本研究は表情認知における目もとと口もとの動きの効果を検証するために実施された。実験では,第1表情の静止画が1秒,モーフィング動画が1秒,そして第2表情の静止画が1秒,それぞれシームレスに呈示された。表情刺激は,全体,目もと周辺のみ,口もと周辺のみのいずれかで呈示された。さらに,表情変化の順序として,中性表情から感情表情に変化する条件と感情表情から中性表情に変化する条件の2つがあった。感情表情には怒りと喜びが用いられた。その結果,怒りに変化する表情の情動価は,全体条件と目もと条件のほうが口もと条件よりも有意に高かった。一方で,喜びに変化する表情の情動価は,全体条件のほうが目もと条件と口もと条件より有意に高かった。これらの結果から,怒りの認知は目もと周辺の動きに,喜びの認知は目もとと口もとの動きの統合に,それぞれ影響を受けることが示唆される。