抄録
人間は,眼を動かして視点を移動させ,その度に得られる情報を符号化し,保持することで場面を理解している。これまでの多くの研究では独立した別々の場面を連続的に呈示したRSVP課題を用いて保持特性を検討しており,ごく短期間で周囲の風景全体が切り替わる特殊な事態となっていた。この問題を解決するために,単一の場面内の視覚断片情報を連続的に呈示して保持成績を検討する方法(小澤ら, 2015)が考案されている。本研究では,単一の場面内の視覚断片情報を連続的に呈示し,再認までの遅延時間を操作することで,断片情報の記憶特性を検討した結果,同一試行内で遅延時間を5秒まで延ばしても保持成績は低下しなかった。一方で,別ブロックで事後再認を行わせた場合にはチャンスレベルまで保持成績が低下した。この結果から,単一の場面内の視覚断片情報の記憶は,視覚的短期記憶としては保持されるが,視覚的長期記憶としては保持されないと考えられる。