2020 年 18 巻 p. 37-40
本研究では、被爆遺構でありながら、強制連行された中国人や朝鮮人などを収容していた歴史を持つ長崎刑務所浦上支所を事例に、悲劇の記憶に関する叙述の変化を明らかにすると共に空間の残存が集合的記憶の形成・継承にどのような影響を与えるのか考察を行った。本研究から、1)浦上支所跡地に平和公園が建設されたのちも、浦上支所に関する記憶は当事者らにより鮮明に叙述されていること、2)戦後すぐにおける浦上支所跡地をめぐる叙述は説明的要素が強かったのに対し、近年にかけてはその印象を俯瞰的に叙述したものが多く見られたこと、3)1991年に明らかとなった浦上支所の遺構は、継承すべき記憶とは何かということに大きく揺さぶりをかけたことが明らかとなった。