千葉県立保健医療大学紀要
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第10回共同研究発表会(2019.8.28)
助産師の内診による診断技術の発達過程
石井 邦子川城 由紀子北川 良子川村 紀子杉本 亜矢子青柳 優子植竹 貴子
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2020 年 11 巻 1 号 p. 1_63

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抄録

(緒言)

 内診は目に見えない膣内の状態を触診のみで把握する高度な技術であるが,触診の手技や診断の適否が可視化できず診断技術の評価が難しい.本研究は様々なキャリア発達段階にある助産師および助産学生による内診シュミレータを使用した内診の診断を分析し,診断技術の発達過程を明らかにすることを目的とする.

(研究方法)

 対象は分娩介助実習終了後の助産学生,および助産師とし,教育機関または産科医療機関に所属し自発的に研究参加に同意した者とした.調査期間は2018年9月~2019年2月とし,研究協力の承諾が得られた助産師教育機関および産科医療機関にて研究対象候補者に対して文書で研究内容の説明と研究協力の依頼を行った.質問紙にて年齢,分娩介助経験例数,助産師経験月数(助産師のみ),分娩取扱の月数(助産師のみ),内診経験回数(助産学生のみ)を調査した.内診シュミレータは,PROMPT Flex内診トレーナー(日本ライトサービス株式会社)を使用した.陣痛開始前の子宮口未開大の状況から子宮口全開大まで様々な分娩進行の状況を想定し8パターンを設定,研究対象者それぞれが8パターンの内診を実施した.内診手技と診断を口述しながら内診を行い,研究者が内診診断結果(ビショップスコア5項目とその他)を聞き取り診断記録用紙に記入した.ビショップスコア5項目と産瘤・回旋の診断について,8パターン全体の診断一致率とパターン毎の診断一致率を算出,分娩介助例数別の4群で比較した.統計ソフトSPSS.ver23を用いてカイ二乗検定と残差分析を行った.

(結果)

 助産学生24名(37.5%),助産師40名(62.5%)であった.助産師の分娩介助例数別の人数は99例以下群17名,100~199例以下群9名,200例以上群14名であった.また助産師の年齢は33.9±9.4歳で助産師の経験月数は113.7±104.3か月であった.ビショップスコア5項目のうち,「開大」の診断一致率は分娩介助例数の増加に伴い全体の診断一致率は上昇するが,学生も54.1%と比較的高く有意差はみられなかった.「展退」「硬度」「位置」の診断一致率は有意差が認められ(p=0.001,p=0.000,p=0.000),分娩介助例数が増加するに伴い上昇した.「下降度」の診断一致率は,4群間での有意差が認められたが(p=0.015),200例以上群でも40.9%と低く,分娩介助例数の増加に伴い下降した.パターン別では,「展退」50%以下のパターンおよび,「下降度」-2以下のパターンで分娩介助例数200例以上の群でも診断一致率が低かった.

(考察)

 「展退」「硬度」「位置」に関する診断は,分娩介助例数が多いほど診断一致率が上昇傾向であることから,経験を重ねるにつれ診断技術が向上していくと考えられる.一方「下降度」について,分娩介助例数の増加に伴い不正確になる傾向は先行研究1)と同様である.学生や分娩経験例数の少ない初心者は,原則に則り坐骨棘から児頭下降度を診断している一方で,分娩経験例数の増加に伴い原則的な診断基準よりも自身の感覚で判断している可能性がある.また子宮口後方で展退50%以下の所見において正確な診断ができていない事実については,分娩進行がまだ進んでいない状況において「展退」は正確に診断していない助産師の存在が推察され,これらの原因を解明する必要がある.

(倫理規定)

 データ収集が個人の評価を目的としないこと,個人情報が保護されることを十分に説明した.特に助産学生に対しては収集したデータが成績には関係しないことを説明し,当該学生が在籍する教育機関には属さない研究者がデータ収集を実施した.本研究は千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て行った.(承認番号2018-09)

(利益相反)

 本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.

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