2020 年 11 巻 1 号 p. 1_69
(緒言)
英語は国内においても外国人とのコミュニケーションにおいて共通言語とみなされてきた.医療現場も例外ではない.しかし,岩田(2010)によれば,在留外国人のうち英語をかわる人の割合よりも日本語が分かる人の割合の方が高い,という結果もあり,やさしい日本語を共通言語として活用していく動向は看過できない.本研究はこれらに関する文献を集め医療をめざす看護学生のニーズ分析を目的とした.
(研究方法)
文献は,震災などの際にどんな言語で情報が発信されてきたのかに関して,医療に特化した英語教育を行なっていく際の課題に関して大別しそれぞれの内容を比較・検討した.
(結果)
国際社会,あるいはグローバル化が進む国内で活躍するためには,英語が話せなければ取り残される,といったメッセージは十分なものではない事が判明し,例えば東日本大震災当時,英語と日本語での情報では十分でなく,地域とつながりのある在留外国人たちは地域のNPOからの情報を,また母国からの母語による情報を頼りにしたとの報告もある(Duncan, 2013).また,多文化・多言語化が進む今日,そうした背景を持つ在留外国人が自ら日本に帰属意識を持ちその中で貢献していきたい,と思えるような社会である事が,resilient community,すなわち災害などが起こっても柔軟に対処していける社会である,といった指摘もなされた(Duncan, 2013).
(考察)
日本における外国人とのコミュニケーションに特に注目すれば,日本社会がより多言語・多文化に対応するよう,その多様性を内包する社会である事が今後の方向性と考えられる.また,英語よりも日本語の方が理解できる在留外国人の割合が多いという事であれば,日本における共通言語である日本語を,在留外国人にも分かりやすい,いわゆる「やさしい日本語」と捉え,その可能性や普及に関してもより活発な議論が必要である.その時に注意すべきは,Rodriguez(1982)で描かれているような,元来のその人たちが持っている文化や言語に日本語がとってかわるのではなく,元来の彼らの文化・言語を尊重しつつ日本語を付加していく可能性の模索である.医療英語(ESP)の学びそのものも,他言語を持つ人たちとのコミュニケーションには役にたたない,という観点ではなく,日本語以外の言語を持つ人たちとの,職業上におけるコミュニケーションの第一歩ととらえ,英語学修の中で頻繁に挙げられてきた,将来職業で役にたてる,という動機にそくしたものである事を鑑みれば,医療に携わる人と,言語教育に携わる人との今後の連携も必要となってくる.また,これらの課題に加え,多様化する言語に対して,英語ややさしい日本語でカバーできない部分については,鳥飼(2009)の指摘のように医療現場などにおける専門の医療通訳者の養成も急務である.
(倫理規定)
無し.
(利益相反)
演題発表内容に関連し,主発表者及び発表責任者には開示すべきCOI関係にある企業等は無い.