抄録
今日、インスリン依存型糖尿病の対症療法としては、患者自身によるインスリン頻回注射がもっとも一般的である。しかしながら、この方法は、患者の生活の質(QOL: Quality of Life)を著しく損なううえ、正確な用量設定も困難であり、長期的な血糖値管理の目的を満足するものではない。このような背景から、グルコースオキシダーゼやレクチンを利用して自律型(フィードバック型)のインスリン供給システム、いわば“人工膵臓”を工学的につくる試みが多くなされてきた。ところが、これらタンパク質由来の物質は、変性や細胞毒性のために長期使用や保管が困難であり、いずれも実用には至っていない。本稿では、合成分子を組み上げて得られる「ボロン酸ゲル」を用いてこれを代替する筆者らの取り組みを中心に概説する。