抄録
強指症を呈し,全身性強皮症との鑑別を要したdiabetic digital sclerosisの典型例を2例を経験した.本症例に対する邦文での詳細な症例報告は自験例が最初であると考えられる.症例1は62歳男性,症例2は69歳男性.ともに20年以上のインシュリン依存性糖尿病(I型)罹患歴があった.いずれも,強指症と手指拘縮を伴っていたため,全身性強皮症との鑑別を要したが,臨床検査所見および臨床症状を考慮し,全身性強皮症とその類縁疾患を否定し得ると考えられた.一方,種々の強指症をきたす疾患につき検討し,本症の背景として糖尿病が最も重要であると考えられた.文献的な考察では,欧米の論文および糖尿病関連の専門書,邦文の糖尿病関連の専門書にdiabetic digital sclerosisの記載があり,糖尿病患者の18~34%に手指の硬化を認めるとされている.本症は全身性強皮症およびその関連疾患との鑑別に重要な疾患であると考えられ,今後,本邦皮膚科領域で広く認知されるべき疾患であると考えられる.