抄録
ELISA法により測定した血清中抗デスモグレイン(Dsg)抗体価が高値(Index値>150)で推移した天疱瘡患者13例(粘膜優位型尋常性天疱瘡3例,粘膜皮膚型尋常性天疱瘡5例,落葉状天疱瘡5例)についての臨床症状と抗体価との相関性を検討した.特に,臨床症状の変化の有無に着目し,通常の測定に推奨されている100倍希釈血清に加えて,400倍および1,600倍の希釈系列における抗体価の変動を比較した.その結果,臨床症状が変化した症例群において,その前・後における抗Dsg抗体価の変動は100倍および400倍希釈血清に比べて1,600倍希釈血清の感度の方がより鋭敏であった.重症度スコアで1段階のみの小さい変化を示す症例群においても,1,600倍希釈血清を用いることによりその微細な変動を明確に検出し得たことは特筆に値する.つまり,希釈倍率を上げることにより,症状の変化と抗Dsg抗体価の変動の相関をより的確に捕らえることが可能であった.また,無症状で経過したにも関わらず,血清希釈系列により初めて抗Dsg抗体価の減少を確認できた症例も存在し(4/10例,40%),このような症例では血清希釈倍率を上げて抗体価を再測定することにより,subclincalな病勢の把握が可能となるため,今後の治療計画を立てる上でも非常に有益であると考えられた.以上の結果から,血清中の抗Dsg抗体価が高値で経過するような天疱瘡では,患者個々の抗体価に応じた適切な血清希釈倍率の選択が,的確な病勢を把握する上で重要であると思われた.