抄録
日本人悪性黒色腫病巣内のcysteinyldopa各異性体とDOPAとを測定したところ,cysteinyldopa各異性体の総量はDOPAのそれに比して圧倒的に多く,cysteinyldopa各異性体の約80%は5-S-CDであった.5-S-CDが黒色腫病巣内に多量に存する理由として,毒性をもつdopaquinoneの解毒作用の結果であると考えてきたが,5-S-CDがpheomelaninの主要前駆物質であるとの観点からすれば,黒色腫病巣内にpheomelaninが形成されている可能性は否定しがたいところであった.今回,著者はIto and Jimbowの方法に則って,黒色腫病巣内のeumelaninとpheomelaninとを分析し,次の興味ある知見を得た.1.melanoticな黒色腫10検体,いずれもがpheomelaninとeumelaninとを含有しており,しかも,pheomelanin優位の例が多かった.2.同一個体に生じた2つの黒色腫病巣内のeumelaninとpheomelaninとの比率はほぼ同様の傾向を示した.3.黒色腫病巣割面の色調とeumelanin・pheomelaninの含有量との間に相関はなかった.4.病巣内の5-S-CD値とpheomelanin含有量との間にも相関はなかった.以上,日本人の悪性黒色腫病巣内にpheomelaninが生成されていることを解明しえた.