2025 年 8 巻 1 号 p. 33-36
【要旨】腹膜垂炎は急性腹症として受診する疾患群のうち、保存的加療にて抗生剤も必要とせずに軽快する予後良好な疾患の一つである。今回は今年度に当院にて腹膜垂炎と診断された5例に関して報告する。【症例呈示】①50歳代、男性。左下腹部痛を主訴に近医受診し、当院紹介となった。発熱はなく、腹部は軽度膨満、左下腹部に圧痛を認めた。腹部CTを撮像し、腹膜垂炎の診断で外来治療となった。外来点滴と解熱鎮痛剤の処方にて7日間で軽快した。②50歳代、女性。左側腹部痛を主訴に近医受診し、憩室炎の疑いにて当院紹介となった。37.7度の発熱、左側腹部に軽度の圧痛と反跳痛を認めた。腹部CTを撮像し、腹膜垂炎の診断で外来治療となった。5日間の解熱鎮痛剤服用により軽快した。【全症例結果】2024年4月から2024年7月までに当院で腹膜垂炎と診断された症例を5例認めた。症例5例は男性4例、女性1例であり、年齢の中央値56歳(平均値49歳)であった。全ての症例において腹痛を認めた。CRPは最低値0.73mg/dL、最高値5.91mg/dLであり、CRPの中央値2.63mg/dL(平均値2.98mg/dL)であった。診断は全例腹部CTによって行い、治療は全て外来で行った。4例は解熱鎮痛剤のみで行い、1例に抗生剤を追加した。【考察】腹膜垂炎は虫垂炎や憩室炎との鑑別が困難となることがある。本疾患はエコー、CT、MRIといった画像所見から診断を確定することができるため、診断のためには本疾患を念頭において診療に臨むことが必要である。本疾患は入院加療も抗生剤も必要としないことの多い予後良好な疾患であり、画像検査にて鑑別を行うことで過不足のない医療を提供することができる。