抄録
DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)概念に基づき、妊娠前からの栄養改善および健康管理を行うプレコンセプションケアの重要性が国際的に高まっている。本総説では、DOHaD研究の世界的な拠点である英国サウサンプトン大学を中心とした研究と予防的取り組みから、日本におけるプレコンセプションケアを展望する。
英国では妊産婦死亡率の増加や、生殖年齢女性の多くが肥満、喫煙、栄養素欠乏など複数のリスク因子を有しており、母体の栄養不足が児の認知発達に影響することが示されている。さらに、妊娠前の肥満や喫煙、ビタミンD不足などは子どもの肥満リスクを増加させ、妊娠前からの介入が重要とされる。このような背景からサウサンプトン大学では、妊娠前から栄養介入を開始する大規模臨床研究NiPPeR研究(Nutritional Intervention Preconception and During Pregnancy to Maintain Healthy Glucose Metabolism and Offspring Health study)が実施されている。その結果は、妊娠前からの複合栄養素サプリメント摂取が、母体の栄養状態を改善し、早産リスクの半減、新生児の体重増加抑制、2歳時の肥満リスク半減など、母児の健康アウトカムに良い影響をもたらすことを示した。さらに、英国では研究成果を社会実装につなげるため、若年層を対象とした教育プログラムLifeLabや、多職種連携ネットワークUK Preconception Partnershipを通じて、DOHaDの視点から健康リテラシーを向上させ、健康格差是正をも目指している。
日本でも若年女性のやせに起因する低栄養、慢性疾患による妊娠合併症の増加が課題であり、プレコンセプション期からの栄養・生活習慣改善、思春期教育、社会的弱者への支援、父親を含めた包括的アプローチが求められる。また、プレコンセプションケアが単なる個別介入に留まらず、教育、医療、福祉、政策の多領域にまたがる包括的な取り組みを必要とする。