抄録
孵化直後のカイコ幼虫 (蟻蚕) の走光性の適応的意味を明らかにするために, いくつかの実験をおこなった.
1) 桑葉を摂食するまえの蟻蚕は, 活発に屈曲的な指向性走光性行動を示した.
2) 走光性応答曲線によって得られた走光性の光刺激の閾値 (光覚閾) は, 暗適応後は10-3~10-2luxの間に, 明適応後は10-2~10-1luxにみられた.
3) カイコが目標として向かう光源の形態も走光性応答に影響をおよぼした.
4) 可視域の単波長光に対しては557nmの緑色光に蟻蚕は最大応答を示すが, 青色光や赤色光に対する走光性応答は極めて低かった.蟻蚕は357nmの近紫外光にも走光性を示した.桑葉の透過緑色光も顕著に蟻蚕を誘引した.
5) 一定の離れた場所から蟻蚕が桑葉に向かう走性は, 暗条件下では明条件下にくらべて低かった.ビタミンA欠乏によって視覚と走光性を喪失した蟻蚕も明暗の条件にかかわらず, 桑葉への走性が著しく低下していた.
6) これらの観察は蟻蚕が食草である桑葉を認知し, これに定位と走性を示して到達するまでの一連の行動において, 視覚過程を媒介とした走光性を走化性とともに, 重要な手段としていることを示している.