抄録
ヨモギハムシの成虫休眠の性質を明らかにするため, 緯度と気温の大きく異なる屋久島と松本から採集した個体群を実験室で飼育し, 幼虫および成虫期の温度と日長が休眠およびその覚醒におよぼす影響を調べた.
1.松本, 屋久島両個体群とも成虫休眠をすることが確認された.
2.幼虫期や蛹期に感受した日長は, 成虫休眠の誘起および深度に影響を与えず, 全個体が休眠に入った.したがって, この休眠は遺伝的に決定された内因性休眠であると推定された.
3.成虫休眠の深さは光周期と温度によって制御され, 高温長日で深かった.休眠終了の光周反応は短日型で, 15℃での臨界日長は, 屋久島個体群で約12時間45分, 松本個体群で約14時間で, 北の個体群がより長かった.日長が臨界日長より短くなるほど休眠終了は早まり, 休眠消去の効果に量的反応がみられた.
4.この休眠は, 暑い夏を乗り切るためのほか, 秋から冬の産卵期の繁殖成功度を高めるのに機能していると考えられた.そのため同じ環境条件下では屋久島個体群は, 松本個体群より産卵数が多く, 産卵期間, 成虫の寿命もともに長かった.
5.松本個体群の休眠終了のタイミングは, 相矛盾する要求, すなわち早く休眠を終了して産卵し, 低い卵の生存率ながらも, 冬の寒さの到来による飢え死に前に産卵を完了してしまう方向の選択と, より遅く産卵を開始して卵期間を短くし卵期の生存率を高く保つ方向の選択との問で孵化卵数を最高にするように休眠の終了時期が決定されていると考えられた.
6.暖地の屋久島個体群は, 成虫の餌は年間を通じて保障されているが, 高温期が長く, ヨモギの芽生え時期が不確定であり, 卵休眠もないので, ヨモギの芽生えに卵の孵化を同調させるのが難しい.したがって, 長い成虫寿命と産卵数を多くすることにより, 晩秋以降長期間にわたり少しずつ産卵する戦略がとられていると考えられた.
本研究を進めるにあたり, 御支援をいただいた信州大学高地生物学研究室の皆様に心から感謝の意を表します.