抄録
本研究は,関東平野に位置する渡良瀬貯水池において,水位低下·干し上げによる2-MIBへの影響について検討した.初めて干し上げを行った1997年は,2-MIBの最大値が100ng/l未満となり,同様の効果を期待して2004年と2005年にも干し上げを実施し,2004年は2-MIB発生時期が7月上旬まで遅れる状況が観測され,2005年は年間を通じて2-MIBの抑制が確認された.また,護岸部付着藻類調査結果より護岸部のPhormidium sp.の死滅を確認し,本研究結果と既往文献からの知見を踏まえると,干し上げがPhormidium sp.を含めた藍藻類に対して大きな影響を及ぼす可能性が高いと考えられる.貯水池運用に係わる諸量と2-MIBの関係を整理した結果,1月∼3月の平均貯水位の低下,もしくは干し上げ面積と干し上げ日数の積の増加により,2-MIBが20ng/l以上に到達するのに要した日数の増加とピーク値が低下する傾向が得られた.また,渡良瀬貯水池の特性として,8月以後では,Phormidium sp.が105∼106細胞数/ml程度まで上昇しても2-MIB濃度は100ng/l未満となる傾向がある.この現象についてはPhormidium sp.のタイプの変化として2-MIBを生産する緑株から2-MIBを生産しない茶株への変化もしくは緑株自体が2-MIBを生産しない株に変化した可能性がある.これより,渡良瀬貯水池では池底まで干し上げることにより2-MIBが20ng/l以上に到達するのに要した日数が増加し,さらにピーク時期が8月以後に達することで,年間を通じて2-MIB濃度が100ng/l未満に抑制されたと推測する.本研究結果より,水位低下·干し上げ操作による2-MIBに対する抑制効果が示唆された.