応用生態工学
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総説
湖沼·貯水池の環境評価モデル
天野 邦彦
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2007 年 10 巻 2 号 p. 199-208

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抄録
湖沼·貯水池の環境評価モデルとして, 主に1970年代より本格化してきた湖沼·貯水池水質·生態系モデルの変遷について振り返り, これらモデルが, 貯水池の流入水温と放流水温との変化の緩和, 濁水放流の長期化の緩和対策策定のためや湖沼·貯水池における富栄養化対策策定のために開発されてきた経緯について記した. 実際の施策の基礎資料として利用される実用化モデルという特性から, 計算対象期間は短くても一年間程度となるため, 開発時点での電子計算機の処理能力にモデル構造の精粗が規定されてきたと考えられる. 低次生態系を対象とした水質·生態系モデルについては, 初期のものから現在のものまで, 基本的なモデル構造には大きな変化はないものの, より分画が詳細になると共に, 元素の動態を分画した形態ごと個別に定量的に表現するモデルへと発展してきていることを記した. このようなモデルの発展により, より定量的に正確を期した評価が可能となる一方, 詳細なモデルの威力を十分発揮させるために, 同定が必要なパラメータ数増大への対応や流入負荷の算定など計算入力条件の精度向上といった点が実用モデルの利用において重要な課題となっていることを記した. また, モデル構造にも関わる課題として, 環境条件が大きく変化するような場合の予測を行うためのモデル開発, 底泥の役割を動的に解析するモデル開発, 生物生息場の環境評価を行うモデル開発を挙げた. 下水道整備などによる流入水質改善事業については, まだ完全ではないものの相当の進展がなされて来ている. このため今後の湖沼·貯水池の環境管理における生態モデルの利用は, 水質改善が進行する中での環境変化を予測したり, 生物生息場としての湖沼·貯水池管理を適切に行うための手法策定に用いられることが増加すると考えられる. このような方向性の中で, 課題を指摘すると共に, 試みられている事例について述べた.
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© 2007 応用生態工学会
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