抄録
新潟県佐渡島を流れる天王川では, 水生生物の自由な移動経路を再生するため, 2つの農業用取水堰に対する落差の解消, 魚道の設置といった環境修復が実施された. 本研究では, この堰改良の効果を, 改良堰上下流の魚類分布, 移動状況, 生息地の物理環境を改良前後で比較することにより検証した. 物理環境調査の結果, 堰上下流で水深, 流速, 底質粗度には改良前後の差がなく, 堰の改良によって魚類の生息環境に変化が生じなかった. 魚類相調査では, 堰の改良後に上流側でアユカケを1個体確認したことから, 限定的ではあるが堰改良の効果があったものと考えられる. 一方で, 改良前後の魚類群集の密度, 現存量, 多様度指数の比較では, 堰改良後にこれらの増加は認められなかった. また, PITタグを用いた標識個体の移動状況の比較においても, 堰改良後に堰上流への遡上率は増加しなかった. 以上より, 天王川においての取水堰改良効果を総括すると, 堰の改良後1年間ではアユカケ1個体が確認されたものの, 改良によって魚類密度や現存量, 堰遡上個体数が増加することはなく, その効果は非常に限定的であったといえる. 明瞭な効果が見られなかった理由としては, 1. 改良を行った堰は, 改良後も依然として魚類移動の阻害要因となっている, 2. 堰上下流の魚類生息環境が変わらなかったことで魚類の応答が見られなかった, 3. 堰改良により上流側に魚類が侵入, 定着するには, より長い時間を必要とする, といったことが考えられるが, 本研究では, 理由の特定には至らなかった. 今後, 同地では, 明確な目標設定のもと, 堰の再改良や上下流の魚類生息環境の創出といった順応的管理を行っていく必要があると考えられる.