抄録
高水敷掘削を活用して,河道内氾濫原環境を効率的に管理するための知見を得るため,揖斐川の自然堤防帯(セグメント 2)において,高水敷掘削によって創出されたイシガイ類生息環境と掘削高さおよび経過年数との関係を検討した. 高さおよび施工年が異なる掘削工区においてイシガイ類の生息調査を行うとともに,土砂堆積厚と掘削後に形成された水域の数と面積を時系列で整理した.そして,工区を解析単位として,累積土砂堆積厚,イシガイ類の生息量と生息水域の割合,ならびに水域数と水域面積が,掘削高さおよび経過年数とどのような関係にあるか検討した. 本調査地では,掘削高さが低いほど(ただし,渇水位より高い),イシガイ類の生息量と生息水域割合は高く,累積土砂堆積厚と堆積速度は小さかった.しかし,継続的な土砂堆積を背景として,イシガイ類の生息場となる水域自体の量は,掘削後 6~9 年目に,また水域内におけるイシガイ類の生息量は掘削後 5 年目に最大となったが,その後,減少に転じる傾向が示された.これらの結果は,生息水域の量も加味した場合,5~9 年ほど経過した低い掘削工区において,イシガイ類の生息量が高くなることを示唆する.以上の結果から,揖斐川では,掘削高さが低く,掘削後 5 ~9 年が経過した掘削工区が対象区間内に常に一定量存在するよう,治水目的の整備と調整を図りながら,計画的に高水敷掘削を実施することが,氾濫原環境の維持管理上望ましいと考えられた.また,これらの結果は,掘削後に土砂の再堆積が進む他の河川においても,管理方策に示唆を与える.