応用生態工学
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事例研究
生息適地解析を用いた生息環境整備の検討:流水性トンボ類アオサナエの事例
井上 太樹野嵜 弘道舘井 恵井上 博文
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2018 年 21 巻 1 号 p. 29-36

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抄録

四国地方整備局山鳥ダム工事事務所による山鳥坂ダム建設事業では,流水性トンボ類アオサナエを対象とした保全措置を検討しており,その整備内容の具体化が課題となっている.本事例では,現地調査結果に基づく生息適地解析により,事業者の実施可能な範囲を考慮しつつ,生息環境整備の候補箇所および必要な整備内容・規模の検討を行った.現地調査として,肱川水系の河辺川,肱川,舟戸川,黒瀬川,大谷川の流程合計約 36 km において,アオサナエ幼虫の生息状況および生息環境(河床材料,河川環境)を調査した.現地調査結果に基づき,Maxent による生息適地解析を実施した.さらに,解析結果や事業者の実施可能性を考慮し,生息環境整備候補地および整備シナリオを検討した.整備シナリオについては複数案を検討し,各整備シナリオに対して構築した生息適地モデルを適用することで,各整備シナリオの有効性を検証した.調査の結果,アオサナエ幼虫が計 80 地点で確認され,ダムの洪水時最高水位付近でも生息が可能であることが示唆された.また,生息適地解析の結果,「中砂~小礫」,「シルト~中砂」,「平瀬」,「ワンド・たまり」といった環境要因が高いモデル寄与率を示したことから,緩流部の堆砂環境が生息適地であることが示唆された.この解析結果を踏まえ,事業者の直轄区間のうち,生息不適地であるが生息適性度が比較的高い 1 区間を整備候補地として選定し,整備シナリオを検討した.検討の結果,整備候補地の現状の環境条件について,大礫から中砂へ 50 m2,早瀬から平瀬へ 50 m2 それぞれ変化するように整備することで生息適地となり,さらに事業者の実施可能性的にも有効であることが示された.本事例の検討プロセスは,環境影響評価法に基づく環境保全措置として生息環境整備を実施していく上で,効果的な整備内容を事業者が確実に実施していくための手法の一つとして有効であると考えられる.

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