2018 年 21 巻 1 号 p. 45-52
神通川の神三ダム下流の淵(長さ約 70 m,幅約 150 m,最大水深 13.7 m)で,サクラマス親魚が出水時に遊泳していた個所の水深を,アーカイバルタグの装着によって 2009 年に調べた.出水前には表層(水面から約 1 m)にいたサクラマスは,流量の増加とともに,浮上と潜行を繰り返しながら,より底層へと移動した.最大出水時には流速の早い表層と深部を避け,両岸近くの水面から 2 ~ 4 m の水深帯に生じた緩流域に滞留したと推測された.水位が低下しはじめると,サクラマスは再び浮上と潜行を繰り返しながら,より表層へと移動し,平水になると出水前とほぼ同じ位置へと戻った. これらのことから,深くて多様な空間を有する淵が,出水時におけるサクラマスの避難場所として機能する可能性が示唆された.