応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
原著論文
摩耗程度の異なるコンクリート壁面に対するカエル類 4 種の脱出能力の比較
田中 雄一河村 年広佐伯 晶子加藤 久
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 21 巻 1 号 p. 9-16

詳細
抄録
本研究では,コンクリート製の農業水路に転落したカエル類の脱出対策を検討する上で重要な,脱出能力の種間差と脱出対策が必要な水路の摩耗程度を明らかにした.コンクリート製水路の摩耗程度の定量的指標である算術平均粗さ(Ra, mm)が 0.23,0.28,0.55 および 1.23 の 4 水準のコンクリート壁(供用年数 0 ~約 40 年)に対する脱出行動を室内実験により調査した.ヌマガエルとトノサマガエルは全てのコンクリート壁で 7.5%以上の個体が脱出したのに対して,ツチガエルは Ra が 0.23 では脱出がみられなかった.さらに,ナゴヤダルマガエルの脱出は Ra が 1.23 のコンクリート壁でのみでみられ,脱出率は 12.5%と低かった.したがって,これら 4 種の生息地域での水路からの脱出対策は,脱出能力が最も劣るナゴヤダルマガエルに着目すべきと考えられた.本種に着目する場合の脱出対策は,少なくとも Ra が 0.55 までは必要で,1.23 でも講じることが望ましいと推察された.なお,どの種も実験装置の四隅を登はんして脱出したため,本研究で示した Ra による基準は,コンクリート面が直交する形状を有する桝や鉄筋コンクリート組立柵きょ・直壁型(例:組立水路Ⅰ型)にのみ当てはまる.コンクリート面が直交しない形状の水路では,脱出が著しく困難になると推測されるため,水路の摩耗程度に関わらず脱出対策が必要なことが示唆された.
著者関連情報
© 2018 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top