応用生態工学
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原著論文
徳島県那賀川河口域のワンド部に造成された代償干潟におけるカニ類,ハゼ類相の変遷
小山 彰彦乾 隆帝大田 直友東 和之梶本 泰司
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2019 年 21 巻 2 号 p. 113-133

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抄録
徳島県の一級河川那賀川の河口部は,2012 年から地震津波対策事業により堤防がかさ上げされることになり,約 28,000 m2 の汽水環境のうち,約 24%が改変された.この堤防のかさ上げ工事の環境保全対策として,希少底生生物の生息場の保全を目的としたミティゲーションが行われ,2 ヶ所の代償地が造成された.本研究では,対象地に 9 ヶ所の調査地点を設置し,2013 年から 2017 年の間に実施された 10 回のモニタリングによって得られた情報を解析した.まず,4 年間の調査によって,カニ類 33 種,ハゼ類 27 種が確認された.調査期間における希少種の出現パターンから,少なくとも両分類群において,堤防のかさ上げ工事によって生息地が消失した種はいないと推察される.2014 年冬季に多くの調査地点で平均泥分含有率の減少が確認されたが,これは 2014 年 8 月の大規模の出水により泥分が流出,あるいは砂礫が堆積したことに起因すると考えられる.一方,順応的管理の一環として代償地にシルト質の浚渫土を投入したことによって,大規模出水以降に代償地とその付近の調査地点では平均泥分含有率が増加した.9 ヶ所の調査地点は地盤の高い区画(4 地点)と低い区画(5 地点)に分けて解析を行った.地盤の高い区画について解析した結果,2 ヶ所の造成地は,堤防のかさ上げ工事,あるいは大規模出水の影響を受けながらも,遅くとも約 2 年半程度の期間を経て,対照地に類似した生物相が形成されたことが示唆された.地盤の低い区画の場合, 多くの地点で 2014 年 8 月の大規模出水の影響を強く受けて底質環境と生物相が変遷したことが示唆される結果が得られた.また,順応的管理の一環として行 った代償地へのシルトの投入,およびシルトを詰めた土嚢の設置が,潮間帯下部の泥質環境の形成,維持に寄与し,結果として代償地付近では工事前と類似した生物相が形成された.
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© 2019 応用生態工学会
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