抄録
本研究は,自然堤防帯(セグメント 2)区間を対象として,様々な河川に適用可能なイシガイ類の生息可能性予測モデル(汎用モデル)を構築することを目的とした.また,汎用モデルから得られる情報を用いて,氾濫原環境保全に資するための具体的な活用法を例示した. 全国 9 河川の自然堤防帯(セグメント 2)区間を調査対象とし,合計 363 箇所(各河川 25~80 箇所)のワンドやたまりといった氾濫原水域におけるイシガイ類の生息調査データを収集した.また,氾濫原水域を含む開放水面と植物群落の分布および 5 m メッシュ数値標高モデルを地図化し,比高,水域面積,本川距離,周辺水域数,樹林面積率を環境変量として個々の水域に与え,イシガイ類の生息可能性を予測するモデル構築を行った. イシガイ類はすべての河川で生息が確認され,生息水域の合計は 73 箇所(各河川 1~21 箇所)であった.イシガイ類の生息可能性は,比高と水域面積によって最もよく予測された.生息可能性と比高は上に凸の関係にあり,冠水頻度や物理的攪乱が中程度の水域でイシガイ類が生息可能となることが示唆された.生息可能性と水域面積は正の関係にあり,大きい水域ほどイシガイ類の生息可能性が高かった. 構築した汎用モデルの河川管理への活用方法について議論した.その中で,治水整備と氾濫原環境保全の両立を図る観点から,木曽川を例に,流下能力図と類似の形式で作成する氾濫原評価図を,1 つのモデル活用方法として紹介した。