応用生態工学
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21 巻, 2 号
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原著論文
  • 渡辺 裕也, 吉村 研人, 赤坂 卓美, 森 照貴, 三宅 洋
    2019 年 21 巻 2 号 p. 75-92
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    出水や低水などの流量変動にともなう物理的攪乱は河川生物相の主要な決定要因であるため,河川生態系に配慮した河川管理を行うためには流量レジーム特性の把握が欠かせない.本研究では,日本国内の 452 地点,20 年間の流量データを解析することにより国内河川の流量レジーム特性とその決定要因を明らかにすることを目的とした. Olden & Poff(2003) で使用された 171 種類の水文指標を算出し,主成分分析により国内河川の流量レジームを特徴付ける重要な水文指標を抽出した.主成分軸を用いたクラスター解析により国内河川を水文学的に分類した.さらに,国内河川の流量レジームの決定要因と人為的改変状況を明らかにするため,流量レジーム特性を表す主成分軸と集水域特性との関係を検討した. 国内河川の流量レジームは流量変動規模によって特徴付けられることが明らかとなった.融雪出水や秋季出水などの季節的な出水イベントの発生規模の変異が大きく,流量変動の発生頻度や発生時期の変異は小さかった.国内河川は 8 つの水文学的グループに分類された.主に北海道に分布するグループなど比較的狭い範囲に分布するグループも見られたが,多くのグループは日本海側や太平洋側など広域に分布していた.日本は世界レベルでみれば気候の変異が必ずしも大きいわけではなく,各グループは既往の広域研究で見られたような明瞭な地理的分布を示さなかったものと考えられた.気候条件が流量レジームの主要な決定要因であることが示された.ダム建設や水田や都市域の増加による流量レジーム改変も見られたが,その影響は気候条件と比較して小さかった.この原因として,日本のダム特性や土地利用特性が考えられた.本研究により得られた知見は,今後の攪乱生態学的研究や流量変動を考慮した河川管理手法の発展に貢献するものと考えられた.

  • 井上 幹生
    2019 年 21 巻 2 号 p. 93-111
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    横断測線法による河川環境要素の計測では,労力と計測値の信頼度を考慮しながら適切な測線間隔を決定することになる.本研究では,小河川の 7 区間において 25 cm 間隔(<0.1 × 水面幅)で計測された水面幅,水深,流速のデータを用いて(それらを真値とみなして),横断測線間隔の粗さに伴う計測信頼度の低下を検討した. 25 cm 間隔で計測されたデータを基礎に,測線間隔を変えた数値を算出することによって,それによる信頼度の違いを検討した.想定した測線間隔は,水面幅の 0.25 倍,0.5 倍,1.0 倍,1.5 倍,2.0 倍 および 3.0 倍の 6 とおりであり,測線間隔の増大に伴う(1)計測誤差の増大,(2)計測値と真値との相関係数の低下,および(3)真値による頻度分布と計測値による頻度分布との差異の増大の 3 点から検討した.また,(4)文献調査により,既存研究で用いられている測線間隔についても検討した.文献調査の結果,河川区間間および河川区間内での環境変異を対象とした既存研究のそれぞれ 70%以上が,2.0 幅倍以下,および 0.5 幅倍以下の測線間隔を用いていた.誤差,相関および頻度分布に関する検討結果より,調査区間の水面幅,水深,流速の平均値を変数とする場合,0.5 幅倍の測線間隔を用いれば十分な信頼度であり(誤差 10 %以下,真値との相関 r はほぼ 1.0),また,1.5 幅倍程度までは比較的高い信頼度(誤差は概ね 15%以下,真値との相関 r>0.95)が期待できると考えられた.しかし,水面幅,水深,流速の区間内変異を表すこれらの標準偏差では,平均値の場合よりも測線間隔の粗さに伴う信頼度の低下は大きく,標準偏差(ばらつき)を変数として用いる場合には,より短めの測線間隔にすべきことが示唆された.また,魚類の生息場所利用を検討するような河川区間内での環境変異を対象とする調査では,測線間隔は理想的には 0.5 幅倍以下,粗くても 1.0 幅倍程度の狭さが必要であることが示唆された.

  • 小山 彰彦, 乾 隆帝, 大田 直友, 東 和之, 梶本 泰司
    2019 年 21 巻 2 号 p. 113-133
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー
    徳島県の一級河川那賀川の河口部は,2012 年から地震津波対策事業により堤防がかさ上げされることになり,約 28,000 m2 の汽水環境のうち,約 24%が改変された.この堤防のかさ上げ工事の環境保全対策として,希少底生生物の生息場の保全を目的としたミティゲーションが行われ,2 ヶ所の代償地が造成された.本研究では,対象地に 9 ヶ所の調査地点を設置し,2013 年から 2017 年の間に実施された 10 回のモニタリングによって得られた情報を解析した.まず,4 年間の調査によって,カニ類 33 種,ハゼ類 27 種が確認された.調査期間における希少種の出現パターンから,少なくとも両分類群において,堤防のかさ上げ工事によって生息地が消失した種はいないと推察される.2014 年冬季に多くの調査地点で平均泥分含有率の減少が確認されたが,これは 2014 年 8 月の大規模の出水により泥分が流出,あるいは砂礫が堆積したことに起因すると考えられる.一方,順応的管理の一環として代償地にシルト質の浚渫土を投入したことによって,大規模出水以降に代償地とその付近の調査地点では平均泥分含有率が増加した.9 ヶ所の調査地点は地盤の高い区画(4 地点)と低い区画(5 地点)に分けて解析を行った.地盤の高い区画について解析した結果,2 ヶ所の造成地は,堤防のかさ上げ工事,あるいは大規模出水の影響を受けながらも,遅くとも約 2 年半程度の期間を経て,対照地に類似した生物相が形成されたことが示唆された.地盤の低い区画の場合, 多くの地点で 2014 年 8 月の大規模出水の影響を強く受けて底質環境と生物相が変遷したことが示唆される結果が得られた.また,順応的管理の一環として行 った代償地へのシルトの投入,およびシルトを詰めた土嚢の設置が,潮間帯下部の泥質環境の形成,維持に寄与し,結果として代償地付近では工事前と類似した生物相が形成された.
  • 永山 滋也, 加藤 康充, 宮脇 成生, 原田 守啓, 萱場 祐一
    2019 年 21 巻 2 号 p. 135-144
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー
    本研究は,自然堤防帯(セグメント 2)区間を対象として,様々な河川に適用可能なイシガイ類の生息可能性予測モデル(汎用モデル)を構築することを目的とした.また,汎用モデルから得られる情報を用いて,氾濫原環境保全に資するための具体的な活用法を例示した. 全国 9 河川の自然堤防帯(セグメント 2)区間を調査対象とし,合計 363 箇所(各河川 25~80 箇所)のワンドやたまりといった氾濫原水域におけるイシガイ類の生息調査データを収集した.また,氾濫原水域を含む開放水面と植物群落の分布および 5 m メッシュ数値標高モデルを地図化し,比高,水域面積,本川距離,周辺水域数,樹林面積率を環境変量として個々の水域に与え,イシガイ類の生息可能性を予測するモデル構築を行った. イシガイ類はすべての河川で生息が確認され,生息水域の合計は 73 箇所(各河川 1~21 箇所)であった.イシガイ類の生息可能性は,比高と水域面積によって最もよく予測された.生息可能性と比高は上に凸の関係にあり,冠水頻度や物理的攪乱が中程度の水域でイシガイ類が生息可能となることが示唆された.生息可能性と水域面積は正の関係にあり,大きい水域ほどイシガイ類の生息可能性が高かった. 構築した汎用モデルの河川管理への活用方法について議論した.その中で,治水整備と氾濫原環境保全の両立を図る観点から,木曽川を例に,流下能力図と類似の形式で作成する氾濫原評価図を,1 つのモデル活用方法として紹介した。
  • 松崎 厚史, 沖津 二朗, 浅見 和弘, 樋口 貴哉, 鎌田 健太郎, 大杉 奉功, 中井 克樹, 松田 裕之, 小山 幸男
    2019 年 21 巻 2 号 p. 145-158
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー
    福島県阿武隈川水系三春ダムでは,制限水位方式のダム運用を行っており,通常,洪水期の開始直前に貯水位を低下させる.ちょうどこの時期は,外来魚の繁殖期と重複し,オオクチバスの産卵開始の目安とされる 15~16℃に表面水温が達する時期が含まれる.このため,ダム湖に特有の計画的な水位操作パターンに工夫を施し,外来魚の繁殖抑制を試みた.通常のダム操作は,貯水位を一定の割合で低下させていくが,三春ダムでは,途中で 2 ~ 4 日程度,水位を一定に保持してオオクチバスの産卵床形成を促進させ,その後,貯水位を低下させて産卵床を干出した.その結果,貯水位を一定に保った水深から 0.5 ~ 2 m 下に産卵床が多く観察され,段階式水位操作により,多くの産卵床を干出できることを確認した.繁殖に成功した稚魚を捕獲し,個体サイズ,耳石から産卵日を推定すると,水位低下中の繁殖成功は少ない結果となった.また,4 段式水位操作と 3 段式水位操作では,前者で繁殖成功数は少なく,より効率的に繁殖を抑制させる結果となった.個体群数の将来予測では,4 段式水位操作の場合,個体数は横ばいで,増加は抑制されると推定された.これらのことから,4 段式の水位操作により,貯水池内のオオクチバスの繁殖抑制は可能と考えられた.
  • 浅見 和弘, 影山 奈美子, 三浦 博之, 一柳 英隆, 浅枝 隆
    2019 年 21 巻 2 号 p. 159-170
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    三春ダムでは平常時最高貯水位~洪水貯留準備水位までの水位差 8 m の範囲で,近年アレチウリが目立ってきた.とりわけ,ダム湖岸工事等に伴い,非洪水期における貯水位上昇が遅くなった 2009 年以降,アレチウリ群落の拡大が目立ってきた.本研究では,非洪水期のアレチウリの果実に対する着水日数の減少が,アレチウリの繁茂と関係があると仮説を立て,果実の耐水性などの生態特性に注目し研究を進めた. 三春ダム湖畔で果実の成熟状況を観察した結果,10 月に緑色から茶褐色に変化する果実が多く,この時期に果実は成熟すると考えられる.緑色果実と茶褐色果実は耐水性に差があり,緑色果実は全ての果実が 178 日で水中に沈み,その後腐敗するものがあったことに加え,翌年の実生発生率も低かった.そのため,三春ダムでは果実が熟する 10 月中旬頃までに着水させられる範囲,具体的には洪水貯留準備水位から 2 m 程度までなら果実の発芽能力を低下させることができると考えられる. 一方,茶褐色果実は,7 か月間の着水期間後も,約 40 %が浮遊しており,浮遊した果実,沈降した果実ともに,翌春は 20%以上の実生発生率を示した.三春ダムでは 11 月になると,アレチウリの果実は茶褐色が増える.非洪水期間中の貯水位は平常時最高貯水位付近に維持されるため,浮遊した果実は平常時最高貯水位付近に拡散・散布され,翌春に発芽すると考えられる.このことが,三春ダムでは平常時最高貯水位付近でアレチウリの分布が多い理由と考えられる. アレチウリを抑制するには,果実が緑色のうちに着水させること,果実を付ける前に刈り取ること,浮遊果実の除去や侵入防止などが考えられる.

事例研究
  • 藤本 泰文, 山田 浩之, 倉谷 忠禎, 嶋田 哲郎
    2019 年 21 巻 2 号 p. 171-179
    発行日: 2019/01/08
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    スマートフォンを用いた水生生物の簡便なモニタリングシステムの開発に取り組んだ.スマートフォンに 180 度全周魚眼レンズ取り付けて防水ハウジングに格納し,水中からの無線通信を可能とする同軸ケーブルを取り付けた.スマートフォンにインターバル撮影と自動アップロード可能なアプリケーションをインストールし,先の同軸ケーブルと陸上に設置した WiFi ルータを経由してインターネットに接続した.このシステムにより,インターネットを通じた撮影予約,インターネット環境下での撮影間隔の指定等の遠隔操作や,撮影画像の自動入手が可能となった.伊豆沼・内沼周辺に位置する 3 つの池で試験したところ,魚類 6 種,他 3 種の合計 9 種の水生生物が撮影された.ゼニタナゴの産卵管やアメリカザリガニなどの体色も撮影され,水生生物の繁殖形質の把握や環境 DNA 分析の検証に着目した遠隔モニタリング調査など,今後さまざまな場所での活用が期待される.

  • 町田 善康, 山本 敦也, 秋山 吉寛, 野本 和宏, 金岩 稔, 神保 貴彦, 岩瀬 晴夫, 橋本 光三
    2019 年 21 巻 2 号 p. 181-189
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    北海道東部網走川水系の 3 次支流駒生川において,住民が設置した複数の手作り魚道の効果を検証するため,魚道設置前後の魚類の種組成,生息個体数,およびサケ科魚類の産卵床の分布を調査した.その結果,魚道設置完了前の 2009 年および 2011 年には,駒生川の落差工よりも上流域には,サケ科魚類が全く生息しておらず,ハナカジカとカワヤツメ属の一種のみが生息していた.また,サケ科魚類の産卵床も確認できなかった.2012 年に 7 基の魚道の設置が完了した後,落差工よりも上流域でサクラマスおよびイワナの親魚と産卵床がそれぞれ確認された.また,2013 年に行った調査では,落差工上流域にサクラマスの生息を確認した.さらに,魚道設置 5 年後の 2017 年には,駒生川においてサクラマスおよびイワナの生息が確認でき,ハナカジカの生息個体数は減少する傾向にあった. 以上の結果から,駒生川に設置された木材や石などを利用した手作りの魚道は,遡上できなかった上流域へのサクラマスおよびイワナの遡上を可能にした.しかし,定住性の高い魚類に関しては回復に時間がかかっており,中流域の三面護岸が影響していると考えられた.

短報
  • 丹羽 英之, 竹村 紫苑, 今井 洋太, 鎌田 磨人
    2019 年 21 巻 2 号 p. 191-202
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    林冠に比べて林床の空間情報は少ない.そこで,林床のオルソモザイク画像と DSM(Digital Surface Model)を取得する簡便な方法を提案し,オルソモザイク画像の判読により得られる植生情報(高木の密度,稚樹の密度,膝根の密度)を例示することを目的とした.沖縄県金武町を流れる億首川のマングローブ林を対象とした.林冠は UAV(Unmanned Aerial Vehicles)で静止画,林床はカメラスタビライザーに取り付けたカメラで動画を撮影し,SfM(Structure from Motion)で処理し林冠と林床のオルソモザイク画像と DSM を取得した.林床のオルソモザイク画像からオヒルギの高木と稚樹,膝根の位置を判読することができた.林床 DSM はドーム状歪みの影響がみられるなど絶対的な高さ精度に課題は残るが概ね地形を反映していた.CHM(Canopy Height Model)は実測樹高との差が 2 m 以上ある地点がみられ,林床 DSM のドーム状歪みが CHM の誤差の一因になっている可能性が示唆された.本研究で提案した林床のオルソモザイク画像と DSM を取得する方法は,簡便な方法で新たな調査方法の 1 つとなる.マングローブ林において,これまでになかった林床情報を取得し,マングローブ林のマネジメントに有益な情報を提供できると期待される.ただし,精度検証が不足しているため,実用にむけてはさらに事例検証を重ねる必要がある.

レポート
  • 立林 泰典, 河村 真悟, 末廣 富士代, 石井 重久
    2019 年 21 巻 2 号 p. 203-208
    発行日: 2019/01/28
    公開日: 2019/04/10
    ジャーナル フリー

    千葉県船橋市が所有するごみ焼却施設の解体及び,隣接地への新設事業における環境影響評価の結果を受けて,旧施設に営巣する小型猛禽類チョウゲンボウへの配慮事項として新施設へ代替巣を設置した.設置した代替巣の大きさは,高さ 32 cm × 幅 42 cm × 奥行 50 cm,設置位置は地上 38 m の建築物の壁面とした.また,代替巣の周辺に見張り,餌の解体ができるとまり場所を設置した.代替巣設置 1 ヶ月後に利用が確認され,翌年の繁殖期には幼鳥の巣立ちが確認された.この見張り場や餌の解体場を含めて検討した代替巣を筆者らは船橋式代替巣と呼ぶこととした. チョウゲンボウの営巣条件のうち見晴らしのよい場所としての条件は,巣の下方 10 m,巣の前面 60 m 程度の範囲に障害物がないことが挙げられた.見張り場は巣と水平もしくは巣よりやや高い位置が利用されており,巣の周辺 60 m 程度の範囲に巣と同程度又は巣よりやや高い位置に見張り場所があることがチョウゲンボウにとって好ましいものと考えられた.餌の解体場については 80 cm × 7 cm の場所でも餌を解体しており,幅の狭いスペースでも解体場として機能するものと考えられた.本報告では,これまで環境影響評価における保全対策として実施された報告がないチョウゲンボウの代替巣の成功例として,船橋式代替巣の特徴である見張り場・餌の解体場を含めた代替巣の形状やサイズ等の詳細を報告した.また,営巣条件の一つとされる見晴らしの良さについて具体的な数値情報を報告した.

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