2019 年 21 巻 2 号 p. 75-92
出水や低水などの流量変動にともなう物理的攪乱は河川生物相の主要な決定要因であるため,河川生態系に配慮した河川管理を行うためには流量レジーム特性の把握が欠かせない.本研究では,日本国内の 452 地点,20 年間の流量データを解析することにより国内河川の流量レジーム特性とその決定要因を明らかにすることを目的とした. Olden & Poff(2003) で使用された 171 種類の水文指標を算出し,主成分分析により国内河川の流量レジームを特徴付ける重要な水文指標を抽出した.主成分軸を用いたクラスター解析により国内河川を水文学的に分類した.さらに,国内河川の流量レジームの決定要因と人為的改変状況を明らかにするため,流量レジーム特性を表す主成分軸と集水域特性との関係を検討した. 国内河川の流量レジームは流量変動規模によって特徴付けられることが明らかとなった.融雪出水や秋季出水などの季節的な出水イベントの発生規模の変異が大きく,流量変動の発生頻度や発生時期の変異は小さかった.国内河川は 8 つの水文学的グループに分類された.主に北海道に分布するグループなど比較的狭い範囲に分布するグループも見られたが,多くのグループは日本海側や太平洋側など広域に分布していた.日本は世界レベルでみれば気候の変異が必ずしも大きいわけではなく,各グループは既往の広域研究で見られたような明瞭な地理的分布を示さなかったものと考えられた.気候条件が流量レジームの主要な決定要因であることが示された.ダム建設や水田や都市域の増加による流量レジーム改変も見られたが,その影響は気候条件と比較して小さかった.この原因として,日本のダム特性や土地利用特性が考えられた.本研究により得られた知見は,今後の攪乱生態学的研究や流量変動を考慮した河川管理手法の発展に貢献するものと考えられた.