2019 年 22 巻 1 号 p. 35-49
近年の気候変動により豪雨が頻繁化し,大規模出水の高頻度化が起こっている.しかし,発生が極めて稀な大規模出水が河川生物群集に及ぼす影響に関する知見は限られている.本研究は,愛媛県重信川で 2017 年 9 月に発生した記録的出水の発生前後に実施した調査に基づき,大規模出水により引き起こされた底生無脊椎動物群集および魚類群集の変動に関する知見を報告する.さらに,調査区間内で典型的にみられる河道ユニットタイプにて行った調査の結果より,出水攪乱に対する反応の各ユニットタイプ間の違いを明らかにすることも目的とした.大規模出水の発生前後に,瀬,自然に形成された側方洗掘型の淵(自然淵),低水護岸沿いに形成された淵(護岸淵)およびワンドの 4 種類の代表的河道ユニットタイプにて調査を実施した.各ユニットタイプで定量的に底生無脊椎動物および魚類を採取するとともに,物理化学的環境および餌資源環境に関するデータを取得した.大規模出水攪乱の発生後,底生無脊椎動物の生息密度(88.7%)および分類群数(41.0%)は著しく減少して いた.群集構造解析により,出水発生後には,発生前と比較して,流水性の分類群がより優占していることが明らかとなった. 魚類の生息密度は攪乱前の瀬で高く,攪乱後には著しく減少していた.一方,攪乱後のワンドでは魚類の生息密度が高かった.種ごとの解析の結果から,遊泳性のオイカワはワンドを高水位時の流れ避難場所として利用している可能性が示唆された. 本研究により,記録的な大規模出水は底生無脊椎動物・魚類群集に著しい影響を及ぼしていることが明らかになった.しかし,攪乱に対する反応は底生無脊椎動物-魚類間,ユニットタイプ間で異なっていた.ワンドのような河道内の止水的環境の保全・再生は,攪乱生態学的な視点からも重要であることが示唆された.