応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
事例研究
平成 29 年 7 月九州北部豪雨により土石流攪乱を受けた渓流の底生動物群集
一柳 英隆鹿野 雄一池上 龍小林 草平司村 宜祥田中 亜季皆川 朋子
著者情報
ジャーナル フリー

2020 年 23 巻 1 号 p. 145-159

詳細
抄録

2017 年 7 月 5 日から 6 日にかけて発生した「平成 29 年 7 月九州北部豪雨」では,筑後川中流右岸地域において斜面崩壊や土石流が多発し,多くの渓流が大規模に攪乱された.底生動物群集の回復過程における比較的初期の状況を把握するために,土石流撹乱を受けた,地質の異なる 3 つの渓流(妙見川支流;泥質片岩,白木谷川とその支流;花崗岩類,本迫川;安山岩)の物理特性と底生動物群集を調査した.妙見川支流や白木谷川とその支流は,土石流攪乱を受けていない対照地点と比較して,水深が小さく流速が高い比較均一な環境であった.本迫川は,対照河川と水深や流速の変異の大きさが類似し,妙見川支流や白木谷川とその支流と比較して変異が大きかった.いずれの河川においても底質細粒分の増加が見られ,とくに白木谷川では砂と細礫の合計が表面被覆の 50%以上に達した.妙見川支流では河床礫間が泥によって閉塞されていた.土石流攪乱を受けた渓流では,豪雨直後からサワガニが, 2 か月後にはコカゲロウ科,ユスリカ科,ブユ科を中心とした底生動物が確認された.攪乱地点と,土石流 攪乱を受けていない同じ地質の対照地点との,底生動物 群集の乖離が小さくなることを回復と定義した場合,攪 乱から 8 か月半後時点では,本迫川,妙見川,白木谷川の順に回復の程度が高かった.回復の程度の違いには, 地質の違いによる底質や水理環境の攪乱後の変化が影響 していると考えられた.

著者関連情報
© 2020 応用生態工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top