応用生態工学
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事例研究
平成 29 年 7 月九州北部豪雨の被災河川における魚類相
菅野 一輝鹿野 雄一厳島 怜佐藤 辰郎皆川 朋子
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2020 年 23 巻 1 号 p. 161-169

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抄録

本研究は,平成 29 年 7 月九州北部豪雨の被災地域の 魚類相を把握することを目的とし,筑後川水系中流右岸の支川(福岡県朝倉市,福岡県東峰村,大分県日田市) を対象とし,2017 年 7 月から 12 月にかけて,8 地点でのべ 13 回の捕獲調査,18 地点で環境 DNA メタバーコーディング分析を行った.捕獲調査では,4 種(カワムツ,タカハヤ,カワヨシノボリ,ドンコ) 470 個体を確認されたが, 8 地点中 3 地点では魚が見られなかった. 環境 DNA 分析では,21 種(ニホンウナギ,ギギ,ゼゼラ,フナ類,コイ,ニゴイ,カワムツ,オイカワ,モツ ゴ,ムギツク,タカハヤ,コウライモロコ,イトモロコ, ウグイ,ヨシノボリ類,チチブ類,ドンコ,アユ,ニジ マス,サクラマス,ナマズ)の魚類の生息が推定されたが,18 地点中 7 地点では魚類の eDNA が検出されなかった.捕獲調査と環境 DNA 分析の両方を行なった 8 地 点では,7 地点でこれらの魚類相が一致し,本調査の環境 DNA 分析により,高い精度で魚類相が推定されたと考えられた.今回の調査より,この度の豪雨に伴う洪水や土砂崩れが,特に朝倉市の河川の魚類相に壊滅的な被害を与えたことが示された.また,東峰村や日田市の河 川の魚類相への影響は比較的少なかった(St.16,12 種;St.17,7 種;St.18,3 種).被害の大きい朝倉市においても,ため池(St.8,7 種)や筑後川本流(St.15,20 種) では多くの魚類が見られ,今後の魚類相回復の供給源に なることが期待された.

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