応用生態工学
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大規模出水によって引き起こされた河川本流から周辺水域への大量かつ稀な魚類の移入
佐々木 進一井上 幹生東垣 大祐
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2025 年 27 巻 2 号 p. 77-85

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抄録

愛媛県松山市近郊を流れる重信川の中流域には,霞堤の遊水地を利用して造成した「広瀬霞」と呼ばれる沼状の自然再生水域がある.重信川本流からこの広瀬霞に移入する魚類を調査していた 2023 年 7 月 1 日に,大規模な出水が起こり,その際に本流から広瀬霞へと遡上移入した魚類を採捕・記録することができた.本報告では,この出水による移入魚類データを,2015 年 6 月-2016 年 10 月の期間中の 152 日にわたって実施された継続観測データと対比させることにより,この大規模出水時に見られた特異的な魚類の移入について記載した.継続観測データによれば,通常時の移入個体数は 1 日あたり数個体から 20 個体程度であったが,この出水時には 2 日間で 503 個体であり,通常時の 10~100 倍の数に上った.また,通常時の移入ではタカハヤ,オイカワ,シマヨシノボリといった河川本流に生息する魚種が主体であったが,この出水時に遡上移入した魚種は,多い順にタカハヤ(383 個体),タモロコ(49 個体),フナ類(44 個体),モツゴ(12 個体)と,通常時とは大きく異なっていた.特にタモロコとモツゴは,2015-2016 年の 18 か月間 152 回にわたる継続観測において一度も採捕されたことがない種であるという点で極めて異例であった.また,フナ類についても,通常時はほとんど採捕されない種であり(継続観測時の最大採捕数は 4 個体),この出水で採捕された 44 個体という数は異例な多さであった.さらには,これらの種の移入源は重信川本流ではなく,溜池などの河川周辺水域を源に,重信川本流を介して広瀬霞に移入したものと考えられた.今回のデータは,大規模出水が,淡水魚類の分布域を拡大させる自然要因としてはたらくことを明示する事例となった.

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