抄録
穏やかで透明度が高く,水鳥がほとんど生息しない琵琶湖の奥出湾(西浅井町大浦)において,沈水植物群落の構造とその季節変化をSCUBA潜水により調査した. 水深構造の違いが沈水植物群落へ及ぼす影響を把握できるように,岸から35mのベルトトランゼクト(幅4m)を水深構造が異なり30m離れた2地点に設置し,1997年5月から11月まで毎月1回,水中植生図を作成した. 両地点とも,外来種2種(オオカナダモとコカナダモ)と固有種1種(ネジレモ)を含む11種が観察され,毎月の出現種数に地点間で有意差はみられなかった. 両地点とも帯状分布が不明瞭で,混合群落がモザイク状に分布していた. 少なくとも5種類(ホザキノフサモ,オオササエビモ,エビモ,ヒロハノセンニンモ,ヒロハノエビモ)には,2地点間で成長パターンに違いが見られた. 本調査場所では,沈水植物の種組成を決める主要因の一つとされる波浪の影響(波浪による撹乱)が少なかったため,明瞭な帯状分布が成立しなかったと考えられる. 本研究は,水深構造のわずかな違いが,種組成や種数ではなく,いくつかの種の生長パターンに影響を及ぼすことを明らかにした. また,種毎の生長パターンの違いは,水生動物の生息地に重要な沈水植物群落の立体構造に変化をもたらす可能性がある.