応用生態工学
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総説
森林地からの水·土砂·栄養塩の流出と森林管理
小川 滋
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2005 年 8 巻 1 号 p. 51-59

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抄録
有明海に流入する河川は,一級河川が7流域であり,2級河川が104流域である.これらの流域の森林域は,水源地域として最上流部に位置しており,森林域は,降雨の集水域として機能して,中流域と下流域への水·土砂·養塩などを排出している.そのため,森林域における水循環についての十分な理解の上で,人間は生産と消費と廃棄の活動を行なう必要がある.水源域は,きわめて局所的な特性を有しており,降雨—流出特性の変動が著しい.そのため,流域全体に及ぼす森林集水域の影響を評価するには,各水源流域から下流域までの連続したデータが必要とされる.しかし,このような観測資料は少ない.全流域でのデータとして,共通,あるいは換算可能な「原単位」での観測が必要とされる.これらを踏まえて,森林流域と有明海·八代海との関係について説明した.しかし,森林流域の観測データが少ないため,森林地からの一般的な流出特性について説明している箇所もある.最初に,森林地の一般的な水循環について述べ,次に,森林流域からの土砂流出は,正常な地質的浸食のオーダーであることを述べた.さらに,森林地からの栄養塩の流出は,有明海に流入する栄養塩(T-N, T-P)より1オーダー低いが,森林管理放棄のヒノキ林地からのT-Nの流出は,同程度のオーダーとなることが推定された.また,降雨時,あるいは,洪水時の正確な栄養塩の計測は,有明海に流入する河川の上下流で行われていないので,まだ,正確な森林地からの水·土砂·栄養塩の流出·流入が把握できていないことを述べた.最後に,森林の管理については,土壌層の保全が最も大事であることを述べた.また,森林流域から沿岸域まで流域生態系水循環システムの概念を示し,各個別生態系水循環のデータベースについて,長期生態研究のネットワークとして構築する必要があることを述べた.
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© 2005 応用生態工学会
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