抄録
有明海沿岸の農業農村地域では,アオ取水,地下水依存,近代的な農業水利など,いくつかの特徴的な水利用形態があり,それに応じた多様な水質環境が存在する.有明海北部沿岸地域の水環境は,主たる農業用水源から4タイプに分けることができる.すなわち,矢部川を水源とする筑後平野の一部,筑後川を水源とする筑後平野∼佐賀平野の東部,嘉瀬川を水源とする佐賀平野,地下水に大きく依存する白石平野を中心とした地域である.このうち,矢部川を水源とする地域は,上流部の茶園の影響で窒素濃度が高い.白石平野は恒常的な水不足地帯で,用水の高度な反復利用が行われており,有機物,リン濃度が極端に高い.しかし,農業用水の反復利用を行なうことは,農業地域からの排水量が削減されるため,結果として地域からの排出負荷量の削減につながる.農業農村の有する多面的機能の一つである水田や湿地の窒素除去機能を,地域の水循環の中で積極的に活用することは流域の水環境の保全と有明海への負荷削減のため有効な方法と考えられる.そのためには,農業用水の反復利用を可能にする農業水利システムの整備が必要であり,生活排水を農業用水として利用する体系を整備することも検討に値する.ただし,農業用水の反復利用や生活排水の農業利用は,農業用排水系内での様々の汚濁物質の蓄積や水環境の悪化を招くおそれがある.灌漑用水としての本来機能だけでなく,農業用水の親水機能その他の多目的利用の機能が損なわれないようにすることが重要である.