応用生態工学
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三春ダムの試験湛水において冠水した湖岸の樹木の成長量の変化と枯死
浅見 和弘影山 奈美子小泉 国士伊藤 尚敬
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2004 年 6 巻 2 号 p. 131-143

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抄録
常時満水位(EL.326.0m)以上を伐採せず試験湛水を迎えた福島県三春ダム貯水池湖岸のクリーコナラ林において,試験湛水前からデンドロメーターを用いて,樹木の成長量の変化を追跡した.試験湛水期間中の冠水日数は,計測した樹木の根元で最も標高の低いEL.326.5mで104日であり,このうち,1997年の5月末から6月上旬にかけて,最大で15日間冠水し,その後9月から12月にかけて最大で89日間冠水した.初回の貯水位の上昇に伴う最大15日の冠水では,クリ,コナラ,ヤマザクラは枯死することはなく,成長量も低下しなかった.その後の冠水日数が最大で89日に及んだ1997年9月から12月の冠水では,冠水日数37日以上の斜面において,湛水終了の翌年から枯死する個体もみられた.冠水日数30日程度までの斜面ではクリーコナラ林では,枯死個体は存在せず,成長量も低下せず,斜面下部は光条件がよくなり一時的には成長が良好となった.そのため冠水日数30日程度までの斜面は,樹木への影響は少なく,樹林は維持されたと考えられた.試験湛水による貯水位の上昇は,試験湛水を実施する年の状況に大きく左右され,正確な予測は困難であるが,可能な範囲内で標高別の冠水日数を算出し,クリーコナラ林であれば冠水日数30日以下になると想定される斜面は伐採せず,樹林を残置させることがのぞましい.それより斜面下部については枯死し,流木や富栄養化の原因となるため,あらかじめ伐採してもよいと考える.
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