応用生態工学
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6 巻, 2 号
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  • 佐川 志朗, 近藤 智, 渡辺 雅俊, 三沢 勝也, 中森 達
    2004 年6 巻2 号 p. 121-129
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    本研究は,北海道空知支庁管内の尻岸馬内川に設置されている堰(床固工:落差2m,落下部はコンクリート水叩)から魚類が落下した際の影響を把握し,改良施工後の影響回避効果を検証することを目的とした.堰改良前に実施した落下実験および生存分析の結果,在来種であるハナカジカおよびフクドジョウには落下の影響は認められなかったものの(生存率100%),ニジマスの0+稚魚には落下の影響が認められた(生存率73%).落下の影響を回避するために,水叩部に副堤を設けることによる改良施工を実施した結果,水叩部の水深は大きく,流速は小さくなり,落下流の減勢効果が認められた.このような条件の下,ニジマス0+稚魚について落下実験および生存分析を実施した結果,落下実験群の生存率は95%となり,対照実験群の生存率85%との間には有意な差異が認められなかった.一方,落下実験群を改良前後で比較すると,生存率は改良前73%から改良後95%に増加が認められた.以上のことより堰の改良施工には一定の効果があったものと考えられるが,落下衝撃の度合いは河川の流況変動により異なってくることが推測されるため,保全の対象とする魚類の降下生態を踏まえ,降下時期の流況を見据えた上で落下影響を把握することが必要である.
  • 浅見 和弘, 影山 奈美子, 小泉 国士, 伊藤 尚敬
    2004 年6 巻2 号 p. 131-143
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    常時満水位(EL.326.0m)以上を伐採せず試験湛水を迎えた福島県三春ダム貯水池湖岸のクリーコナラ林において,試験湛水前からデンドロメーターを用いて,樹木の成長量の変化を追跡した.試験湛水期間中の冠水日数は,計測した樹木の根元で最も標高の低いEL.326.5mで104日であり,このうち,1997年の5月末から6月上旬にかけて,最大で15日間冠水し,その後9月から12月にかけて最大で89日間冠水した.初回の貯水位の上昇に伴う最大15日の冠水では,クリ,コナラ,ヤマザクラは枯死することはなく,成長量も低下しなかった.その後の冠水日数が最大で89日に及んだ1997年9月から12月の冠水では,冠水日数37日以上の斜面において,湛水終了の翌年から枯死する個体もみられた.冠水日数30日程度までの斜面ではクリーコナラ林では,枯死個体は存在せず,成長量も低下せず,斜面下部は光条件がよくなり一時的には成長が良好となった.そのため冠水日数30日程度までの斜面は,樹木への影響は少なく,樹林は維持されたと考えられた.試験湛水による貯水位の上昇は,試験湛水を実施する年の状況に大きく左右され,正確な予測は困難であるが,可能な範囲内で標高別の冠水日数を算出し,クリーコナラ林であれば冠水日数30日以下になると想定される斜面は伐採せず,樹林を残置させることがのぞましい.それより斜面下部については枯死し,流木や富栄養化の原因となるため,あらかじめ伐採してもよいと考える.
  • 河川間比較による検討
    井手口 佳子, 山平 寿智
    2004 年6 巻2 号 p. 145-156
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    福岡県内の75本の河川を対象に,流量および人工構造物(堰,水門,護岸など)の設置状況と,通し回遊性の甲殻類および貝類の生息状況(バイオマス・密度)の関係について調べ,通し回遊性無脊椎動物の着底と遡上,および生息に影響する要因について検討した.各河川の淡水域下限でそれぞれ定量採集・観察を行った結果,ミゾレヌマエビとイシマキガイは流量の大きな河川ほどバイオマスが高かったが,トゲナシヌマエビは流量の小さな河川に多く出現することがわかり,同じ通し回遊性生物でも着底・遡上の生態に種間差があることが示唆された.また,ミゾレヌマエビとイシマキガイは堰が無いより有る河川の方が,トゲナシヌマエビは水門が有るより無い河川の方が,それぞれバイオマスが高かった.これらは,堰や水門の有無と各河川の流量とが多重相関しているために現れる見かけの効果によると考えられた.河床の状態,護岸の有無,そして水際の植生量が各種のバイオマス・生息密度に与える影響は,種間で大きく異なっていた.ミゾレヌマエビは天然の河床で植生の豊富な河川に多く出現したが,トゲナシヌマエビ,モクズガニ,およびイシマキガイは人工的な河床や護岸が施された河川にも多く出現した.この種間差は,淡水域での生態の違いを反映していると考えられた.また,堰の上流の停滞域には,非通し回遊種(純淡水種)のミナミヌマエビが多く出現した.河川人工構造物が通し回遊性無脊椎動物に与える影響を評価するには,構造物による直接的影響(回遊経路の遮断など)以外に,生物的環境(種間競争や捕食圧)の変化による間接的影響にも焦点をあてる必要もあると考えられた.
  • 田中 規夫, 浅枝 隆
    2004 年6 巻2 号 p. 157-164
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    湿地植生の遷移は自然再生事業において維持管理上重要な視点となる.しかし,抽水植物の拡大特性や遷移については不明の点が多いため,抽水植物間の競合の優位性を考慮し立地条件を把握することが重要な課題となっている.本研究は,抽水植物間(ガマ属とヨシ)の浅い湛水深における競合優位性の変化を先取り状態の違いと土壌栄養塩状態に注目して,その傾向を定量的に把握することを試みたものである.研究の結果,ガマ・ヒメガマが同じ状態で競合を開始した場合には浅い湛水深でもヒメガマが有利である.ガマが先取りで入植した場合には土壌栄養塩の状態によってヒメガマが駆逐できるか否かが決まる.土壌栄養塩蓄積の影響が高くなればより密生したガマ群落をヒメガマが駆逐可能となる.日射・気温の厳しい高緯度のほうが低緯度に比べてガマ群落は安定であるが,低緯度より高い富栄養化状態になるとヒメガマ群落に駆逐される.このような栄養繁殖種の競合の優劣は長期的に決定される.メカニズムとしては,地下部バイオマス増加能力と土壌栄養の関係が重要である.ガマ属とヨシの競合解析の結果,コガマ・ガマのヨシに対する先取り効果はあまりなく,ヒメガマはヨシに対して比較的先取り効果のあることがわかった.これらは地下部の増大能力やR/S,従属生長期の地下茎利用率などでその順位についての解釈が可能である.ガマ属とヨシに限らずに多年生の抽水植物・湿生植物が競合する際の重要な指標の1つと考えられ,他の種についても注目する必要がある.
  • 浦口 晋平, 渡邉 泉, 久野 勝治, 星野 義延, 坂上 寛一
    2004 年6 巻2 号 p. 165-176
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    外来種の侵入と河原固有の在来種の衰退が著しい多摩川中流域の河川敷から土壌を採取し,その化学性を分析した.多摩川中流域の本来の環境に近い永田の土壌は強いアルカリ性を示し,人為的な影響が大きい関戸・是政に比べ有意に高いpHであった。河原固有種が分布するような礫質の河原は,貧栄養であったことから,カワラノギクは貧栄養なアルカリ性の環境に馴化した種である可能性が考えられた.また,NO3- ,K+,NH4+間にそれぞれ有意な正の相関が認められ,多摩川中流域における富栄養化にこれらイオンが相補的に寄与している可能性が示された.さらに,pHとNH4+は有意な負の相関を示し,調査域の富栄養化がpHの低下を伴うことが考えられた.永田のハリエンジュ林は,河原に比べ高濃度のNO3-が検出されたが,出水後に著しく減少し,出水が貧栄養化に寄与することが確認された.HPO42--P,およびNH4+も特徴的な変動を示し,河川敷土壌の化学性は出水により劇的な影響をうけることが示された.土壌pHの低下および出水頻度の減少に伴う富栄養化は土壌の化学的環境を変質させ,河原固有種の衰退および外来種の侵入を助長している可能性が示唆された.
  • 湯谷 賢太郎, 浅枝 隆, 田中 規夫, Shiromi KARUNARATNE
    2004 年6 巻2 号 p. 177-190
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    刈取りは荒廃した湿地の回復や,湿地の植物多様性を維持するための一般的なヨシ原管理手法である.近年開発の進むヨシ生長モデルを基に,湿地管理手法としてのヨシ刈取り再生長モデルを,観測結果を基に開発した.埼玉県さいたま市の秋が瀬公園内の湿地にて,刈取りからのヨシの回復過程を調査するために,3年間の観測を実施した.6月刈取りが最もヨシの生長に悪影響を及ぼしたが,6月刈取り,7月刈取り供に,刈取り後の再生シュートの葉の割合を0.28から0.56に増加させた。6月刈取りはシュート高さおよび乾燥重量と地下茎乾燥重量を減少させた.一方では,ヨシは夏場の刈取りから2年間程度で回復し,ヨシ原管理には,1年もしくは2年おきの刈取りが必要であることが示された,改良したヨシ刈取り再生長モデルは刈取りと野焼きに関して,本観測結果と既往文献のデータをよく再現した.モデル計算の結果,栄養状態の良い環境に生育するヨシは3年から4年程度で刈取りから回復するが,栄養状態の悪い環境に生育するヨシでは,10年以上を要する場合もあることが示された.
  • 竹門 康弘, 鷲谷 いづみ
    2004 年6 巻2 号 p. 191-194
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    Papers on alien species and control measures were called for the Journal and a review paper and an original paper are included in this issue. In the review paper, Miyawaki and Washitani describe the present situation of invasive alien plants in riparian habitats of Japan based on the monitoring data obtained by the Ministry of Land, Infrastructure and Transport, and propose an ecosystem approach for the management of the invasive species populations in order to conserve biodiversity in riparian plant communities. The original paper by Tamura et al. deals with distribution patterns of an invasive Formosan squirrel in urban areas and concludes that size of the forest with broad-leaved evergreen trees is an important factor for successful invasion by the squirrel. It indicates that habitat restoration in urban area might result in helping invasion of some alien species. This is a reason why we should investigate on uninvasibility of natural communities to apply the mechanisms to habitat restoration in ecosystem management. In this paper, a model for judging investment ratio of direct community manipulation to habitat manipulation (Community-Habitat Investment Model) was proposed.
  • 宮脇 成生, 鷲谷 いづみ
    2004 年6 巻2 号 p. 195-209
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    日本の河川において外来植物の侵入が進行している.国が管理する河川において,外来植物群落の占める面積の割合はすでに約15%に及び,その大部分はわずか数種類の"侵略的外来植物"の群落によって占められている。
    このような外来植物の侵入は,生物多様性に対する大きな脅威であるだけでなく,生態系を全く異質なものに変えてしまう可能性を持っている.そして,外来植物侵入によって生物多様性や生態系へもたらされる変化は,不可逆的なものである可能性がある.したがって,生物多様性および健全な生態系を保全するためには,早急に外来植物対策を進める必要がある.
    一方で,外来植物対策を成功させるためには,自然再生事業などといった生態系管理の一環として対策を位置づけることが重要である.また,1)可能な限り外来種侵入後の早い段階で対策を開始し,2)根絶のために十分な労力を集中させ,3)対策自体がその他の生物や生態系に与える影響を極力小さくし,4)生態的な復元と併せて実施し,5)広域・長期的視点に立ち,順応的管理手法に基づいて実施することが必要である.
    そのためには,外来植物の土壌シードバンク特性をはじめとする生活史および個体群動態などといった生態学的特性,侵入・分布拡大を助長する要因を明らかにする必要がある.さらに,駆除方法の設定においても,管理の戦略にもとづき環境負荷の小さい方法を選ぶだけでなく,より効果が得られるような実施タイミングを選ぶようにしなければならない.このとき,外来種の生態学的知見だけでなく,周辺に生育・生息する生物,河川工学などさまざまな専門分野の知見を統合する試みが必要である.
    さらに,広域・長期的な戦略に基づく外来植物管理のためには,それぞれの地域の市民・NPOなどが個別に対策を実施するのではなく,流域内の他地域の主体との連携のもとに対策を進めることが不可欠である.
  • 田村 典子, 宮本 麻子, 美ノ谷 憲久, 高嶋 紀子
    2004 年6 巻2 号 p. 211-218
    発行日: 2004/03/30
    公開日: 2009/05/22
    ジャーナル フリー
    神奈川県の市街地に点在する林分100カ所において,移入種であるタイワンリスの生息の有無を調査し,その林分の環境特性との関わりをロジスティック回帰モデルによって解析した.環境変数として,林分の面積,近接する林分間の距離,リスが生息する5ha以上の林分との距離,林分に占める常緑広葉樹の割合,針葉樹の割合,落葉広葉樹の割合,その他の植生割合,林分周囲が宅地で占められる割合,田畑で占められる割合,道路で占められる割合,その他の土地利用で占められる割合の11変数を検討した.その結果,林分面積がもっとも影響の大きい変数であった.距離に関わる変数は生息への影響が有意ではなかった.常緑広葉樹の割合,周囲を田畑が占める割合がそれぞれ生息に正の関係を示し,宅地の割合が負の関係を示した.林分面積を変数として入れ,互いに相関関係のない変数,周囲が田畑の割合と常緑広葉樹の割合を加えたモデルを立てたところ,予測確率は0.45となった.タイワンリスがこれまで神奈川県で分布を拡大してきた背景には,上記の環境変数にあげられた林分面積が比較的大きく,常緑広葉樹の割合が高く,閑静な環境であったことによると考えられる.今後の分布拡大の傾向を予測するためには,こうした環境がどのように分布しているのかランドスケープレベルでの検討が必要である。
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